蒸気式

『死んでしまった、おじいちゃんの思いで』
 私はおじいちゃんが好きだった。子供の頃、独り暮らしのおじいちゃんの家に母とよく遊びに行った。母と二人で行くととてもうれしそうだった。おじいちゃんの家は藁葺き屋根の上に更に修復用のトタンが被せてあるというボロボロの家だった。このトタンのおかげで雨漏りしなかった。
電気もガスもちゃんと使えるようになっていたが、水道がなかった。水は手動式のポンプでキーコキーコと地下から汲み上げなければいけなかった。でも冷たくておいしかった。
 冬は一灯缶を切り抜いて、それで枯れ枝や紙を燃やすので、台所の天井は煤だらけだ。煙の臭いが服に染み付いてしまう。でも、この臭いが好きだった。部屋は3つあって、それぞれの部屋には30ワットの裸電球が付けられている。昼間でも薄暗かったけれど、なんかドキドキするものがあった。トイレには電灯が付いていなかったので、薄暗くなると一人でトイレに行けなかった。必ず母に一緒に行ってもらった。このトイレはおじいちゃんが穴を掘って作った手作りなので、足を踏み外すと危険だった。
 テレビはなかった。いつも一人で寂しいので、ラジヲからはいつも音楽が流れていた。何もなかったけど、いっぱい遊べて退屈しなかった。一日中いてもずーっといてもよかった。実は僕はここに住んでみたかったんだ。
 夕方になって帰るときはちょっと寂しかった。ラジヲはニュースをだらだらと流し出している。そして異常なほど真っ赤な夕陽がそこにあった。その中でおじいちゃんはずーっと手を振ってくれていた。