1986 年(昭和 61 年) 4 月 9 日の出来事

岡田有希子さん自殺
未遂の後、飛び降り
八日午前零時二十分ごろ、東京都新宿区四丁目、芸能プロダクション「サンミュージック」が入ったビル七階屋上から、同プロダクション所属の歌手岡田有希子さん(十八)が飛び降り、全身を強く打って即死した。岡田さんはこの日午前、港区の自宅マンションで左手首を切るなどして自殺を図り、病院で手当を受けてプロダクションに戻った直後だった。
赤坂、四谷署の調べによると、岡田さんは同日午前十時前、港区南青山六丁目のマンション自室で、台所のレンジのガス栓を開いたうえ、左手首を切った。「ガスのにおいがする」という通報でかけつた赤坂署員らに救出され、近くの病院で手当を受けた。この時は軽傷で、手当を受けたあと、プロダクションに行っていた。四谷署は、午前中に死にきれなかったために飛び降り自殺したものとみて、動機などを詳しく調べている。
岡田さんは事務所では付き人と一緒にいたが、付き人が目を離したスキに、屋上から飛び降りたらしい。
この日、ドラマの収録が延期になったため、仕事はなかった。サンミュージックプロは「五月に新曲を出す予定で、仕事も順調に進んでおり、仕事上の悩みはなかったはず。そのほかの原因も思い当たることはありません」と話している。
岡田さんは、本名は佐藤佳代。昭和四十二年八月二十二日、名古屋市熱田区生まれ。日本テレビ系「スター誕生!」第四十六回決戦大会でチャンピオンになり、五十九年四月、「ファースト・デイト」でレコードデビュー、同年の日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。五月発売予定の「花イマージュ」で九曲目になる売れっ子アイドル。昨年十一月には、東京都国税局の「税を知る週間」のキャンペーンガールになったほか、今年初めには確定申告のポスターモデルにもなっている。また、今年一月までTBSで放送された連続ドラマ「禁じられたマリコ」では、テレパシーを持った少女役を演じ、人気を集めていた。最近も「くちびるNetwork」がヒットしている。
所属プロダクションのサンミュージックによると、岡田さんは六日に名古屋市でコンサートを開いたあと帰京、七日は休日で、九日からテレビ朝日のドラマのビデオ撮りの予定だった。
赤坂、四谷両署のその後の調べでは、マンションの部屋の中に失恋したことや、「勝手なことをしてごめんなさい」と、きちんとした字で便せんに書かれた遺書がみつかった。
岡田さんはデビュー後、ずっと所属するサンミュージックプロの相沢秀禎社長宅に寄宿していたが、この五日、念願だった青山のマンションに越してきたばかり。相沢社長らは午前二時前から記者会見し、「仕事も充実していたし、男友だちについても心当たりがない。ただ、感情の起伏の激しい子でした」と沈痛な表情で話した。
ぐちこぼす相手なく
音楽評論家・藤中治氏の話
アイドル歌手というのは、ぼうようとして、どこか抜けているところがないとやっていけないところがあるが、そうした中で彼女は理とか才に走りすぎたところがあった。学校の成績も良く、意地っ張りなところもあって、いわゆるちゃらちゃらしたアイドルではなかった。ぐちをこぼす相手もなく、自分のからに閉じこもってしまうタイプで、アイドル歌手としては、大変だったのではないか。歌手としては、突き抜けたものはなかったが、まじめな歌を歌えば、地味だが光っていた。